あの日の涙、今日の汗
涙は心の汗という。
汗は熱を奪う。これはオーバーヒートを押さえるためである。
涙も熱を奪う。心の熱を奪い、壊れないようにするのである。
土手を見よ、少年が哭いている。
彼もまた、涙を流している。
地も裂けよと、腕を地面に叩き付ける。
「っうあぁぁあ!」
そのまま、拳立て腕立てを始める。
普段は素直で、多少理屈っぽいのだが、彼は盛り上がるとやたら熱血である。
今、彼を盛り上げているのは、まさに失恋であった。
これが、一月前にあたる。
■ ■
彼は学生で、所轄、高等学校に通っていた。
陸上部へ入部している彼は、いつよりもまして、一心不乱に短距離を走ってい
た。どうやっても、一月前の自分に勝てないのである。
家から、土手まで。
はたして、なぜ速く走れたのであろう? そりゃあもちろん、気分は高ぶって
いた。でも、それだけで早く走れるとはとても思えないのが彼である。なにしろ
、長年のランナーとしての経験がある。むしろ、落ち着いていた方が良いくらい
なのだ。
部活が終わる。
彼は土手へ急ぐ。
今日もまた、土手から家まで走ってみるのだ。
??やはり実験はしないと行けないな。
と思いつつ彼は、モルモットは嫌だなあ。と、和やかな思考を展開させる。失
恋は、もう終わったのだ。
暗転、視界が飛ぶ。文字通り、体も飛ぶ。
したたかに体を打ち付ける。
スッ転んで且つ、吹っ飛んだ自分を認識する。
辺りを見回すと、自分に横殴りでぶつかったらしき、女性と自転車がぶっ倒れ
ている。
若い訳ではないが、さほど年を取っているようにも見えない。
すわ、新しい恋か。
そう思った彼は、
「逃げるぞ!」
台風のごとく走り去る! 風と飛び散る血汗を残して!
「何がっ?! ちょ、ちょまってよ! 病院!」
考え事をしている彼は、一つのことに集中するあまり、一見不条理な行動をと
りがちなのだ。
逃げる彼氏に追う彼女。
逃げる立場になれば、普段以上の力が出せるのではないか??という、色々ぎり
ぎりの案であった。
頬をつたう汗、どうやらいい感じで走れている。
……というのは誤解であり、実はただの流血である。
「ピーポー! ピーポーを呼んで!」
彼女が恋人としての、ろくに隠れてもいない隠語として彼女になるのは、まだ
先のお話。
(written by 酢)