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「マナ、また別れたのかよ」
「恋」と書いて「あい」とは読まない_
友人は日々恋とやらに忙しい。 この間会ったときは確か片思い中で、カナリ良い線いってるときかされたあげく数日後には付き合ったと聞いたハズなんだけど……久々に会った友人もといマナはただいま片思い真っ最中と話す。 「前の、えっと名前なんだっけ。あ、そーだ、カズヤ君はどうしたの?」 「ちゆ、カズヤじゃなくてカズキ」 ちゆの間違いを正しながら、とりあえずマナの続きを待つ。 「それがね、」 そう同じ台詞から始まる似たような話を、今日でいったい何度目だろうなんて頭の隅で思い返しながら聞くのがもはや私とちゆの日常。 まあ、心底嫌ならそもそも連まないし、別に不満なんてものもないんだけど。 言葉として確認した覚えはないが、たぶん私たちはただの友人より幾分か深い絆を持っているんじゃないかと思う。 それが私の勝手な思い込みだとしても、少なくともありがちな上辺だけの綺麗な付き合いでないことは確か。本音を言って、それが相手の癪に障って、喧嘩もする。それでも離れていくことはない関係。つまり、よくいうアレ、情のある友ってヤツ。 そんな仲でも把握しきれていない恋の相手の名と行方は、マナの問題。 学校は違っても中学から続く友好関係は未だ健在で、今日のようにお互い都合をつけ、月一程度の割合で三人で会っている。もちろん二人で遊ぶことだってあるけれど、やっぱり三人と二人では何か違う。もの足りない。たかが一人の存在なんて、と言われてしまうかもしれないが、十や二十の中の一人とはわけが違う。 それは私たちの見事にバラバラな個性故に感じる感覚なのかわからないけど、ただひとつ、言えることがある。 「カズキはダメだった。なんか違うの。てか、あいつウザい」 恋愛系の話は常にマナから始まりマナで終わる。 つまり、言い方を変えれば同じうら若い乙女のはずの私やちゆからその手の話が零れることは一切ナイ。私たちはいつだって聞き手。 べつにコイバナあってのお喋りだとは思わないけど、花のない会話というか……月のない夜空みたいな。三日月でも満月でも、月があるかないかで変わる紺の空模様みたいな感じ。 そして語り手の話は記憶に残される前に新しい話へと上塗りされ、把握する余地もなく新たな情報が押し寄せてくるのだから頭の中の整理と処理が間に合わない。その更新の早さは頻繁にやりとりをしているメールの中でも、幾日の経過で文章に出て来るオトコの名前が変わっていることがあるほど。 良く言えば青い春満喫中の恋多きオトメ。 悪く言えば超がつくであろう尻軽オンナ。 「でもマナ、すごく愛してくれるのがいいって言ってなかったっけ?」 すがさずはいったちゆの問いも、マナの中ではもうすでに結論が出ている。 「まあそうだったんだけど。度が過ぎてるってのも問題だってことがわかった。だってありえないんだよ? 夜中にメールしてきて、眠いから無視してたら電話が鳴るの。しかも一時間置きとかストーカーみたい」 仮にも元カレ。しかも告白されるよう自ら罠を張って引っ掛けたというのにその言いようはないんじゃない? ってことは、思っても口に出さないのがルール。今までに数回口をすべらせたことがあったけど、話が脱線する上に余計長く連ら連らと、しかも同じ話を繰り返しされるのが目に見えている。 「マナが我儘なのは自覚してるよ。無い物ねだりだってのもわかってる」 けどね、とひとり感傷に浸るこの時間も慣れっこ。 最初こそぐだぐだ引きずるなら別れるなよ、なんて思っていたけど、今となっては全てを把握しているから何とも思わない。 ようは慣れ。小さな疑問は共にする時間が答えを教えてくれる。 マナは、恋愛の過程を楽しんでいる。 好きな人ができたら、アプローチして相手をその気にさせる。でも、絶対自分から告白はしなくて、相手が焦れったさを覚え‘オ友達’以外の新しい道を開くのをひたすら待ち続けて……罠にかかった途端、終わりという名のゴールの準備を始める。 片思い中に積み立てた理想像と少しでも違う点を見つけると、やっぱりごめんなさい、で、ジ・エンド。そして愛実的恋愛ロードの最後に待ち受けているのが毎月訪れるこの日。つまりちょうど今、この瞬間。 「恋と書いてアイとは読まないんだよね」 「当たり前じゃん。てか何ソレ」 今までになかったマナらしく、同時にマナらしくもない台詞に興味をそそられる。 「マナはね、愛されたいの。そして愛したい」 「だから。愛されてたんでしょ? カズキくんに」 マナの矛盾に素早く指摘をいれるちゆ。 そう、今までだって同じ。 羨ましいくらいに愛してもらっていても、マナはダメだと言い、そう感じてしまう自分が我儘で無い物ねだりだと責め、悲劇を作り上げてきた。 で、恋するのは悪いことじゃないよ、とかなんとか、マナ著のシナリオにのっとって私かちゆが慰めると、本当の終わり。エンドロール。 主演(ヒロイン):愛実 ヒーロー:元カレ 他、出演者:祈・千由紀 エンディングが終わるとまるで映画のようにあっさり次の恋に移って新たなシナリオを企てるんだから名監督っていうか、この映画のたとえは間違ってないと思う。 「ちゆの言うとおりなんだけどね、少し違うの」 「「へ?」」 思わず重なった疑問の声はマナに聞こえているのかいないのか、自分の世界に入ったままマナは淡々と結論まで連ねる。 「恋が愛に変わることがあっても、‘恋=愛’の式は成り立たない。……確かにマナは愛してもらえたけど、マナの恋は愛とは別のものだったの」 正直な話、恋愛観なんてものは十人十色だと思っているから人の価値観なんてどうでもいい。 ただ、これが他人じゃなくてマナだから、理解できなくても聞くくらいはするもので、大切な友人だからこそ聞いてあげるものだと思う。マナだってきっと私たちに理解を求めてなんかいない。ただ聞いて欲しいだけ。 だから、 「私にはなんだかよくわかんないけど。マナが違うって思ったんならソレでいいんじゃない?」 「いつかその愛に変わる恋ってのが見つかると思うし。今はとりあえず探してみたら」 いつものように締めの台詞を。 「そうだよね! あ、ねーイノは恋してないの?」 「残念ながら。最近そういうのはナシ」 まとまったかなあ、なんて思っていたら話は飛び火。恋の火花ってヤツ? (……なんか間違ってるかもしんないけど、気にしないで。そこは空気を読んで華麗にスルー) 真面目な話、とうぶんはマナの恋愛話だけで充分。 「じゃ、ちゆは?」 「右に同じ」 月はふたつもいらない。風流を乱す。 「ふたりっていつもそうだよね。もういっそのこと百合っちゃえば?」 思いもよらぬ発言に、一瞬怯む。……けど、これはこれでマナらしいかもしれない。恋をしていない時期っていうのが考えられないって以前言っていたから。 でも、さ。普通友人にそういうのってススメル? 仮にもシンユウにそういうのススメル? 「だってよ、千由紀サン。どう?」 「うーん。遠慮しときます。祈チャンとは末永く良き友でありたいので」 答えは、否(ノー)。同性愛を否定するわけじゃあないけど、ね? ちゆの言うとおり。末永く良き友でありたいので。 それにもし万一の可能性でそういう性癖があったとしても、友人と恋愛沙汰なんてありえない。うまくいっているうちは良いかもしれないけど、その後だめになったら? 友達でもいられなくなっちゃうかもしれない。 それだけは、絶対イヤダ。 「あーけど、男だったらマナよりちゆみたいな子と付き合いたいかも。ま、私もいちおう女だし? 絶対ナイ‘もしもの話’だけど」 「それならうちも。断然マナよりイノが良い」 青春とは異な。 良き友? 心をひらける誰かがいること? あ、勉学に励むっていう選択はもちろん論外で。 「ふたりとも意地悪ー。マナ、ひとりでつまんないじゃん」 小さなことに拗ねること? 些細なことで傷つく時期? 繊細なら青春してる? 「そんなことないって。だってマナは今片思い中なんでしょ?」 「そうなの! きいて。マナの今の好きな人はね、」 立ち直りが早いとそう? 甘苦い悩みを抱いてることが条件? やっぱ結局恋愛ですか? 青春の定義なんてわからない。もしかしたらそんなものないのかもしれない。 でも、少なくとも春夏秋冬いつ何時問わずアヲイハル真っ盛りな彼女は該当者。 だからきっと、愛実的恋愛映画に出演している私たちもたぶんそうなんじゃないかと思う。 例えば、今回のなんかはマナの名言からとって『「恋」と書いて「あい」とは読まない』みたいなタイトルで(ただし、友情出演ギャラはナシとかいう恋愛映画)。 熱く甘く語るマナの話を聞き流しながら、抱いていた疑問を隣の相方に投げかけてみる。 「ねぇ、ちゆはさっきのどう思う?」 「え? さっきのって……ああ、アレね。私は読みたいけど、当て字にも程があるっていうか」 「っていうか?」 「マナの恋をアイと読むなら、うちは愛なんて絶対信じない」 ……訊いておいてなんだけど、私も、左に同じ。
end
(written by kidzuna.) |